33連続で有給取得〜サラリーマンブルワーのアメリカビール留学〜


「サラリーマンをしながら有給休暇を使ってアメリカにビール留学をした人がいる」

 

ビールファンの間で密かに話題になっている人がいた。

 

和泉俊介さん。

都内で一般企業に勤めながら33日間連続で有給休暇を取得し、アメリカでの醸造研修プログラムに参加した人物である。

 

14632733_10202586210454316_666190458_o

 

私が初めて和泉さんのことを知ったとき、その情熱と行動力にものすごく衝撃を受けた。

 

「私もチャレンジしてみたい!」と思い、

すぐにアメリカの醸造研修プログラムを検索し、膨大な英語の説明に断念した記憶がある。

 

そもそも33日連休の有給休暇取得が可能なのか?

日本語でも難しい醸造の知識を英語で学ぶことができるのか?

今後仕事はどうするのか?

 

これらの疑問に対する答えを探るべく、今回和泉さんのアメリカビール留学報告会に参加させていただき、インタビューさせていただいた。

 

14724293_10202586210414315_1477789758_o

注)会場となった十条すいけんブルワリービア++さん 。ビールがとても美味しかった。

 

 

-1.自分にとってのメジャーリーグはどこか-

 

「ものすごくフルーティーでうまい」

大学院で植物の分子生物学を学んでいた和泉さんは、そのビールの味に衝撃を受けた。石川酒造のイングリッシュペールエールであった。それまで飲んできた、ラガービールとはまるで別物だった。

  

それからビールにのめり込むようになった和泉さんは、ビアフェスのボランティアに参加するようになった。

サラリーマンになった今でも毎年そのボランティアに参加し続けている。

 

大学卒業後は一般企業入社し、サラリーマンとして仕事に打ち込む日々が続いた。

一方で入社して数年の月日が経った頃、「これからの人生で本当にやりたいことは何だろう」と考えるようになった。

 

和泉さんの頭にパッと思い浮かんだのは、大学生の頃から関わり続けてきた”ビール”であった。

そこから徐々にブルワーになりたいという想いが膨らんでいく。

 

そして入社12年目、遂に和泉さんはある大きな決断をする。

 

“アメリカへのビール留学”

 

現状どこかのブルワリーで働かない限り、日本で本格的にビール醸造を学ぶ手段はない。

しかし日本のブルワリーで働くということは、サラリーマンである以上非現実的である。

 

「自分にとってのメジャーリーグはどこか」

 

サラリーマンとして限られた時間の中で最大限の学びを得るために、ビールの本場(=メジャーリーグ)で学びたいと感じていた。

 

数名のビール関係者にアドバイスを頂き、辿り着いた答えが”アメリカ”であった。

 

アメリカには日本のおよそ20倍のブルワリーがある(2015年12月時点)。

日本と比べ、クラフトビールの市場規模も桁違いだ。

 

そんなアメリカは和泉さんにとって、まさにビールの”メジャーリーグ”だった。 

 

「ビールの本場に飛び込み、醸造を学びたい」

そう思うようになった。

 

幸運なことに日本で通信教育を受けたのち、現地のブルワリーでインターンを経験できるという半年間のプログラムがあった。

今回和泉さんが参加したAmerican Brewers Guild(アメリカンブルワーズギルド 以下ABG)の醸造研修プログラムである。

 

実はプログラム参加の2年前から上司へ相談し始めたのだという。

理解ある上司と同僚達のおかげで、有給休暇を活用してのプログラムへの参加が決まった。 

こうして2015年6月中旬、ABGの醸造研修プログラムがスタートしたのだった。

 

 

-2.ビールは世界共通言語-

 

学生時代にアメリカへ短期留学し、外資系企業に入社したとはいえTOEICの点数は600点ほど。

ABGのプログラムは、約4.5か月間のオンライン教育プログラム、アメリカで1週間の実習、そして現地のブルワリーで5週間の醸造研修が行われる。

 

英語は一つの大きな壁だった。

 

プログラムがスタートすると、難しい英語の本とDVDが和泉さんの元に大量に届いた。

 

14620117_1106746642735584_1999695337_n              14741598_1106746769402238_1572224331_n

 

「日本語ですら難しい内容を、英語で見聞きし、理解するということは思った以上に大変な作業でした。DVDと教科書、大量の補足資料、英語辞書を行ったり来たりしながら勉強していました。」
と和泉さんは当時を振り返って苦笑している。

 

オンライン教育プログラムでは、DVD2〜3枚の講義を毎週観るのがノルマだった。そのため平日は会社で仕事、週末は家に引きこもってビール醸造の勉強という生活が続いた。

 

「4.5ヶ月のオンライン学習の間に2度テストがあったのですが、10数年ぶりに徹夜をしたこともありましたよ。」

と和泉さんは語っている。

 

サラリーマンを続けながら英語で醸造研修プログラムを受けるということは、想像以上にハードであることは間違いない。

 

そんな状況の中でも日本での通信教育、アメリカ(バーモント州のABG)での日間の実習と最終試験を無事クリアし、いよいよ5週間の現地ブルワリーでの醸造研修が始まった。

 

和泉さんがその舞台に選んだのが、ポートランドのCommons Breweryだ。

Commons Breweryは、ベルジャンスタイルのビールが得意なことで知られている。

 

commons

photo by THE COMMONS BREWERY

 

ブルワリーでは麦芽の粉砕、ビールの仕込み、樽の洗浄からボトルのラベリングまで、ビール醸造に関する全てのことを行った。

やりとりはもちろん英語である。

 

14741208_1106641582746090_4949084_n

 

ブルワリースタッフの言っていることがわからなかったり、自分が伝えたい事がうまく伝えられないことも幾度となくあったという。

 

しかし彼らの間にはビールという共通言語があった。

互いのビールへの情熱、ビールによって生まれた心のつながりは、言語の壁を越えたのである。

 

和泉さんは着実にブルワーとしてのスキルを身につけていった。

 

-3.一番の財産は人とのつながり-

 

ポートランドはクラフトビール天国として知られている。

ポートランドがあるオレゴン州のブルワリーの数は、日本全体のブルワリー数とほぼ同じ。

 

さらに職場から歩いていける範囲に4〜5軒のブルワリーがある。

街にはホームブルーイング専門店があり、麦芽、ホップだけでなく、酵母だけでも数十種類ほどの品揃えがある。日本では考えられないことだ。

 

 

またブルワリー&ブルワーの物理的な距離が近く、人・モノ・アイディア(イースト)の交流が生まれ、常に新しいモノが生み出されている。

例えば和泉さんのトレーナーのSamさんは、半年前までは隣のブルワリーで働いていたという。

 

隣のブルワリーからは、

 

「Commonsはレシピとブルワーを盗んだ」

 

と冗談を言われたこともあるらしい。しかしそんな冗談を言い合える関係性こそがポートランドという街の魅力なのだろう。

 

12822110_10207130122186265_1379897640_n

注)写真向かって左がトレーナーのSamさん

 

また仕事終わりには、よく同僚たちがポートランドのブルワリーを案内してくれたとのこと。

 

「彼らは様々なブルワリーやブルワーを紹介してくれたし、そこで出会った人たちとビールについて多くの意見交換ができました。」

と和泉さんは語ってくれた。

 

こうしたビールを通じて得た”人とのつながり”は、和泉さんにとってビール醸造の知識やスキル以上の財産になったという。

 

 

 

〜4.サラリーマンブルワーへの道〜

 

「もっと様々なビール造りにチャレンジしてみたいんです。」

ABG醸造研修プログラムを通じて、和泉さんのビールへの想いはより一層強くなっている。

 

多くの学びを得て日本へ帰国した和泉さん。

帰国すると様々な人に、「これから仕事はどうするの?」と尋ねられるらしい。

 

「仕事はこれからも続けていく」

それが和泉さんの答えである。

 

しかしブルワーになるという夢を諦めたわけではない。

 

「サラリーマンをしながら、ブルワーになるための道を模索していきたいと思う」

と和泉さんは力強く語っている。

 

和泉さんのビールへの情熱と並外れた行動力があれば、”サラリーマンブルワー”が誕生する日はそう遠くはないのかもしれない。

 

14686504_1106639602746288_505882201_n