世界30カ国、700以上の酒造会社を巡って辿り着いた奇跡の水〜日本初の小規模蒸留所設立に向けた挑戦〜


2009年5月。香港からスタートした世界一周の旅は、中国、ベトナムを経て、3カ国目のラオスへと突入していた。ようやく旅にも慣れてきたその頃、ラオスの首都ビエンチャンの安宿で私は一人の青年に出会った。

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辰巳祥平さん。東京農大で醸造学を専攻し、焼酎の起源を求めて東南アジアを旅している最中であった。彼の酒にまつわる旅話に、当時20歳そこそこの私は興味津々だった。

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パンパンに膨れ上がったバックパックの中身は、そのほとんどがお酒。台湾の烏龍酒、ラオスのワイン、トウモロコシで作った焼酎など、日本では見たことがないお酒ばかり。中でも印象的だったのが、コブラを丸ごと漬けたコブラ酒。その強烈な見た目のインパクトもさることながら、舌と喉を焼き尽くすような猛烈なアルコール感は今でも鮮明に覚えている。

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どんな話をしたか正確には記憶していないが、酒は人々の生活に密着したものであるということ、そして世界には想像を遥かに超える未知の酒が数多く存在しているといったような話をした覚えがある。エジプトのピラッミドも、バルセロナのガウディ建築群も、アルゼンチンの氷河も素敵だったが、ビエンチャンの安宿で酒について語った想い出がなぜか今でも忘れられない。それは私が酒好きだったからというのもあるが、それ以上に辰巳さんの酒への純粋な好奇心と愛が私の心を動かしたからに違いない。

 

あれから8年。ついに彼は自らの蒸留所を造ることとなった。個人が行うものとしては、日本で初めての小規模蒸留所になるらしい。彼が世界30カ国、700に及ぶ酒造会社を巡って辿り着いた地が岐阜県の郡上八幡だった。

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徹夜踊りや食品サンプルの街として有名な郡上八幡だが、実は日本名水100選に選ばれるほど水の街としてもよく知られている。美しい城下町にはいたるところに水路が張り巡らされており、いつでもどこでも美味しい水を楽しむことができる。辰巳蒸留所はそんな水の街郡上八幡の中でも、最も寒く、最も水が綺麗なエリアにある。現在リノベーション中の建物は、もともと印刷機の部品工場として使われていた場所であった。1Fには蒸留スペースとBAR、2Fには蒸留機を眺めながら試飲できるテイスティングスペースが完成する予定だ。

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こちらが蒸留スペースとなる部分。奥に見えるのがBARスペースとなる予定。

 

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2Fからの眺め。眼下に蒸留機を眺めながら、美味しいスピリッツをテイスティングできるようになるのだとか。

 

工場の外には小さな川が流れており、その流れを辿っていくと源流が湧き出る鍾乳洞に辿り着くことができる。その水質は鍾乳洞の石灰岩から溶け出したミネラル分を含む中硬水で、軟水でも硬水でも表現できないような面白い味わいの蒸留酒が造れるのだとか。また郡上八幡でも最も寒いこの場所では、もともと寒さを利用して氷が作られており、その品質は郡上八幡城へ献上されるほど上質なものだったらしい。蒸留酒造りを行う場所としては、水質、ストーリー共に最高の条件が揃っている環境である。

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氷が作られていた場所。

 

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「最高の環境で、大好きな蒸留酒造りに没頭できる」

 

全てが順調そうに見える辰巳さんの蒸留家人生であるが、ここまで辿り着くには彼の強い目的志向と猛烈な努力があった。私が8年前彼とバンビエンで別れた後も、彼の酒巡りの旅は続いていた。「美味い蒸留酒は美味い醸造酒から生まれる」という考えのもと、夏から秋はワイン造り、冬から春にかけては焼酎造りや日本酒造りを学んでいた。またその合間をぬって、グルジア・トルコにワインの起源を求める旅に出るなど、世界中を旅しながらその知見を深めていった。酒造りに対する飽くなき向上心はとどまることを知らず、蒸留酒を学ぶべくワーホリで半年間スコットランドへ行ったり、ワイン造りの研修のためにニュージーランドへ1ヶ月間行ったこともあった。そんなライフスタイルを5年以上続け、辿り着いたのがここ郡上八幡である。美味しい水はもちろんのこと、その風景がアブサンの聖地であるフランス・スイスの山岳部に似ていたことが決め手となったらしい。

醸造所併設のBARのオープン予定は2017年4月頃。夏には彼の造った蒸留酒が飲めるようになる予定だ。圧倒的な経験に裏打ちされた知識を武器に、彼がここ郡上八幡の地でどんな蒸留酒を生み出してくれるのか今からとても楽しみである。

 

最後にアルケミエ(錬金術士達)という屋号を選んだ辰巳さんのスピリッツへの想いを紹介し、本記事を締めくくろうと思う。

 

1滴の創造

栽培かは大地から作物を

醸造家は作物からお酒を

蒸留家はお酒から生命の水を

調合家は生命の自ら

貴方にふさわしい霊薬(エリクサー)を

その1滴は栽培家、醸造家、蒸留家、調合家による錬金術の英知

 

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